8月10日 最終回

2010 年 8 月 10 日

熱風渡るビルの屋上、今日もいつものランチタイムが繰り広げられているかと思えば、いつもとちょっと異なる様子。
「う――………」
「わかりやすく夏バテしてますね、ツユコさん」
「食欲ないよ――…」
「お弁当作ってこなかったんですか?」
「……いちおう持ってきたけど…」
 ぐったりと取り出したのは小さなデザート用タッパー。中をのぞくと、なにやら半透明のものに蜂蜜がたっぷりかかっている。
「なんですかこれ?」
「“アロエの蜂蜜漬け”。もうこんなのしか食べれる気がしないよ」
「夏バテしてるのに、ちゃんとホームメイドで作ってくるところが、お弁当女子のプライドって感じですね」
「だてに一年もお弁当女子やってないからねっ!」
「あ~、もう一年ですか。よくやりましたね私たち。お料理の腕もちょっとは上がったかな?」
「それ以外は何の進歩も感じられないけどね~…」
「ちょっと夏バテでネガティブになってますよツユコさん! 」
「だっておかしいよ、この酷暑!」
 一年たっても相変わらずのOLふたり、今日ものんびりランチタイムは過ぎてゆく…〈おわり〉

7月5日

2010 年 7 月 5 日

「自意識過剰はかっこわるいよねっ!!」
 夏になってもあいかわらずのOLふたりは、今日も屋上ランチを満喫中。
「たしかに、いい意味で自意識過剰とか、あんまり聞かないですよね」
「他人を気にしすぎて好きなことできないとか、もう最悪でしょ」
「…なんかいきなり半ギレぎみなのは、午前中なにかあったんですか?」
「あたり。同じ島の男子がなんかごちゃごちゃ言ってきてさ~」
「…具体的には?」
「『つーか今日、なんかくさくないスかあ?』って」
「…無駄にモノマネうまいですよねツユコさん。今ので誰かわかりましたよ」
「無視しましたけどね!!」
「…けっきょくなんだったんですか?」
 いぶかる後輩にランチボックスをぐいと突きつけて、ひと言。
「『ニンニク入りオムレツ』!」
「あ、おいしそう。あ、ニンニクくさい!」
「ちょっとくらいニンニク臭がもれてるからって、うるさいんだよ、もう!」
「…で、自意識過剰じゃないツユコさんは、そんな人の目など気にせず、己をつらぬくのです、と。カッコイー」
「夏こそニンニク、常識でしょっ!」
「…夏場のニンニク臭ほど最悪なものもないと思いますけどね…」

2010年6月8日

2010 年 6 月 8 日

 「世の中の流行を追う、っていう姿勢は、いくつになっても必要だと思うんだよね」
 梅雨の晴れ間の屋上ランチ。太陽が顔を出せばもはや夏のような照り付けだ。日焼け防止のストールをかぶっている後輩があいまいにうなずいてくる。
「…まあ、ふつうに気になりますしね。ハヤリモノは」
「でももっと大事なのは、いいなと思ったらすぐにそれに乗っかることなのです!」
「…たしかに。でも何で丁寧語で力説なんですか?」
「自分えらいなと思って自画自賛してるの。見てこの目新しいオカズ」
 ランチボックスをのぞくと、なにやら得体の知れないものがたっぷり入っている。
「なんですかコレ。…おから?」
「『クスクスのサラダ』!」
「ああ…なんかアフリカ料理の?」
「いちおうモロッコ風のアレンジなんだけど。映画だかなんだかの影響で、この夏はモロッコ風のファッションが流行るらしいから。すかさずお弁当で取り入れたわけですよ」
「…取り入れるのはいいんですけど、なんで素直にファッションで取り入れないんですか?」
「……。自分の向き不向きをよくわかってるからっ!! ダメだよ、流行に振り回されちゃ!!」

2010 年 5 月 10 日

2010 年 5 月 10 日

 GWの予定のないOLふたり、今日もなかよく屋上ランチ
「どっか行けるなら上海とか行きたいですね。おいしいもの食べに」
「いいね~上海ガニ!」
「あとパジャマ族見てみたいです」
「なにそれ?」
「ふつうにパジャマ着て街を歩く人がいるらしいですよ。万博あるから禁止されてるみたいですけど」
「…異文化だね~」
「てか、文化の交流が生んだ珍事件ですよね。西洋からパジャマという文化が入ってこなければ、こんなことにはならなかったはず」
「…にしても、日本人はべつに外に着ていかないでしょう、パジャマ」
「国民性の違いでしょうか」
「まあ、見に行きたいっていう人がいるってことは、立派に観光アピールポイントなのかもしれないけど…」
「舞妓さん見に京都行きたい、みたいな?」
「わたしはやっぱりパジャマよりカニ!」
「――って今カニ食べませんでした!?」
「いやいや、これはカニカマ」
 お弁当のなかをのぞくと、そこには旬の『アスパラとカニカマサラダ』が彩り鮮やかに盛り付けられている。
「おいしいけど、やっぱり本物のカニ食べたいな…」

2010 年 4 月 12 日

2010 年 4 月 12 日

「桜もあっという間に盛りを過ぎちゃうよね~」
「春ってわりと賞味期限が短い季節ですよね…」
 屋上ランチにはうれしい季節の到来。ぽかぽか陽気の下で今日もお弁当をつつくOLふたり。
「桜でもなんでも、限りあるものだからキレイなんですよね~…」
「命短し恋せよ乙女?」
「そういう、あせらせる感じの格言てキライなんですけど!」
「格言かなこれ。でも真理じゃない?」
「だからあせるんですよ! この間のお花見合コンもいまいちだったし」
「春は短し急げよ乙女」
「インスタントな格言やめてください! あせる!」
「――あせるっていえば、今朝寝坊してお弁当超あせって作ったんだけど、これあっという間にできたよ、『春キャベツの巣ごもり卵』」
「なんですかソレ? おいしそう」
「千切りキャベツに卵落として、レンジでチンするだけ! 味付けはてきとうに」
「…爆発しませんか、卵?」
「裏技があります! 楊枝で穴をあける」
「あ~…どちらかといえば、恋の裏技が知りたいです…」
 春風がやさしく頬をなでていく…。

2010 年 3 月 8 日

2010 年 3 月 8 日

「先日、おそろしい発見をしたんです。…おひとつどうぞ」
「なにこれ『手巻き寿司』? またレアなもの作ってきたね~」
 3月のふわふわした陽気のなか、今日も変わらぬ屋上ランチ。
「ハマッてるんですよ、手巻き。手軽でおいしくて、野菜も肉も炭水化物も一度に摂れるなんて、まさにランチの救世主!」
「ゴハンに合うものなら何でも巻けちゃうしね~。でもこれって皆で楽しく巻き巻きっていうイベント性が重要なんじゃないの?」
「たしかに。ひな祭り女子パーティーしたときやったんですけど、なんかおかしいくらいテンションあがりました」
「…で、おそろしい発見て?」
「そうでした。発見したんですよ、パーティーのときに。ある恐ろしい共通点!」
「共通点?」
「ずばり、既婚女子は、みんな巻きが美しい! で、彼氏なし子たちは、軒並み中身がノリからあふれかえってるんです」
「あ~、なんかありそうだね…」
「くずれた『手巻き寿司』に必死でかぶりつく女子の顔って…なんていうか、ふとテンションが下がってしまうほどで…」
「『手巻き寿司』では欲張らない。教訓を得たね。彼氏ゲットに一歩前進じゃない?」
 吹きぬける風からは、ほのかに希望の匂いがする…。

2010 年 2 月 9 日

2010 年 2 月 9 日

「肝心なのはバランスです。それが崩れると、もうぜんぶダメです」
「なにそのいきなり力説」
 いいかげん寒さにも慣れてきて、風のない日は屋上ランチをしても特に寒いとも感じない今日この頃。あえてバレンタインデーの話題に触れないOLふたりは、今日もつれづれに弁当をつついている。
「ひさしぶりに料理失敗したんですよ。この『春菊のゴマ味噌和え』なんですけど」
「見た目おいしそうだけど。ちょっといただきま~す…甘っ!」
「苦いの嫌いなので、春菊の苦みを消すために砂糖多めにいれたんですよ。そしたらなんかもうお菓子みたいになっちゃって」
「春菊の素材の良さがいちじるしく失われているねえ…せっかく旬なのに」
「ゴマも味噌も、春菊そのものも好きなのに! バランス間違えてこの様です。だから、バランス、超重要だなと改めて実感」
「なるほどね。てか、基本的な調味料の底力を思い知るよね」
「さじ下限ひとつで天国or地獄ですよ。これってオトコとオンナにも言えることではないでしょうか?」
「あっ!そこいくの、この話題? がんばって避けてたのに!」
「あ~! すみません。無意識に…」
 2月という恋愛加熱月間――まだまだ春の気配は遠いランチタイムは、ゆるやかに過ぎていく…。

2010 年 1 月 6 日

2010 年 1 月 6 日

「正月休みなんてあっという間ですね…」
「年が明けたところで何も変わらぬ日々が続いていくんだよねえ…」
 いまだ正月ボケが抜けないOLふたり。冬のおだやかな陽ざしに誘われ、コートにマフラー着用で屋上ランチにのぞんでいる。
「時間がたつのが最近すごく早くなった気がします。初詣とかバーゲンとか、やりたいこと全部やりおわらないうちに旬が終わってしまうというか」
「物理的に時間が短くなったりしないから、単なるウッカリかボンヤリじゃないの?」
「いーえ、違います。もっとこう、抗いがたい力を感じます!」
「…その、いちいちおおげさな所は、今年も変わらないんだろうねえ…」
「何も変わらないって、さっき言ったのツユコさんですよ」
「集中力の問題じゃない? これ、きのうの夜に作ったんだけど、鍋のなかでじっくり煮込まれていくところをじっと見てると、なんかあっという間に時間がたったよ」
 言いながら汁物用のタッパーを開けると、そこには冬の定番『ふろふき大根』。
「おいしそうですけど。でも大根見つめてトリップしてる姿、かなり恐いんですけど」
「幸せな時間だからいいの。要は、自分の時間の使い方に自分で満足してるかどうかでしょ。それ、今年の目標にしなよ」
「…なるほど。大切なのは自己満足だと?」
冷たい木枯らしが吹きぬけていく…。